2020年12月10日 新潟県上越市役所内記者クラブにて,上越教育大学 池川茂樹准教授より「マスク着用が熱放散能に及ぼす影響と運動・活動時の熱中症リスク低減マスクの開発に関わる実証研究」について記者説明会が行われました。
国立大学法人 上越教育大学
健康教育研究センター
准教授 博士(医学) 池川茂樹
1.研究背景
新型コロナウイルス感染拡大に伴い、マスクを着用して運動を実施する機会が増加し、マスク着用による熱中症リスクが社会問題となってきた。我々は、低酸素環境下での運動には、活動筋の乳酸濃度の上昇により、通常よりも皮膚からの対流性熱放散能が減弱することから熱中症のリスクが高まることを報告している(Miyagawa et al., J Appl Physiol, 2011.)。しかし、マスク着用によりこのような現象が起こるかどうかについては、明らかにされていないことから、マスク着用時の素材自体の透過圧力損失による換気量低下が、運動・活動時の対流性熱放散能にどの程度影響するか検証を行った。本研究で得られた知見を熱中症の予防・対策として新たな機能性マスクの開発に寄与することが期待される。
2.研究概要
健常な成年若年男性6名を被験者とし、気温30℃、相対湿度30 %に管理された室内で最大酸素摂取量の55%強度(中程度の負荷)の自転車運動を30分間行い、その際の心拍数、血圧、深部体温(食道温)、胸部皮膚血流量(対流性熱放散能の指標)、経皮的動脈血酸素飽和度を測定した。また、安静時および運動開始後5、10、20、29分目に血中乳酸濃度を測定した。測定は、マスクなし、不織布マスク着用、低圧力損失メッシュ生地マスク着用※1の3通りの条件で実施した。
※1 低圧力損失メッシュ生地マスクについては、マスク開発実績のある新潟県内企業へ開発を依頼した。
健康教育研究センター 実験風景
3.研究結果
マスクを着用しない場合に比べて、不織布マスクを着用した時、運動時の経皮的動脈血酸素飽和度が大きく低下し、血中乳酸濃度が高くなる傾向にあることが確認された。また、この血中乳酸濃度の上昇により、不織布マスクを着用しながら運動した時の皮膚からの対流性熱放散能が減弱することが確認された。さらに、安静時においても、マスクを着用しない場合に比べて、不織布マスクを着用した時の食道温が高値を示したことから、不織布マスクは、運動時の皮膚からの熱放散だけでなく安静時における呼気からの熱放散をも妨げている可能性が示唆された。
一方、低圧力損失メッシュ生地マスクを着用した時、不織布マスクを着用した際に見られたこれらの影響は、確認されなかった。
以上の結果から、不織布マスクは、マスクで覆われた口からの熱放散および、マスクで覆われていない皮膚からの熱放散能を劣化させ、熱中症リスクを高める可能性があるが、今回使用した低圧力損失メッシュ生地マスクはほとんど熱放散を妨げることがないため、熱中症リスク低減マスクとして活用できると結論付けた。
マスク着用が深部体温に及ぼす影響(本研究結果の一部抜粋)
4.今後の展開
本来であれば、プライオリティーの観点から、学会・論文発表の後に研究結果を商品に応用すべきところではあるが、一刻も早い社会情勢の安定化を願い、本研究の結果がその一助となることを期待し、早期の商品化を望む形となった。今回の我々の研究をもとにオンヨネ株式会社が開発した低圧力損失メッシュマスクを、学校現場や社会体育団体の活動時において、幅広く使用していただける事を期待している。
製造及び販売については、オンヨネ株式会社より進める予定で、2021年2月1日より下記HPにて詳細掲載、販売は3月頃からスタート予定です。
© 2016-2024 ONYONE.